HATAKEYAMA SEMINAR
2016年度趣旨 国際社会における「日本らしさ」の探究
―真のグローバル社会を目指して―
今、国際社会は、人類の運命を左右しかねない文明史上の挑戦を受けている。
冷戦終結後、世界がグローバル化の一途をたどる中、人々は、政治・経済・社会・文化等の様々な分野で、国家という単位に捉われず、国境を越えて活動するようになっている。だが、その中で我々は、国際テロリズム・大量破壊兵器拡散・サイバー戦争・難民といった国境を越えて展開される非伝統的な“新型”脅威に対峙せざるをえなくなった。
一方、アメリカの覇権に対する中国やロシアの挑戦意欲にみられるように、伝統的脅威である大国間の勢力対立も激化し“新型”脅威に対応する上で不可欠な大国同士の協力にも暗雲が漂っている。
今日の国際システムは、「国民」意識を基盤に、互いに独立した主権を有する「国民国家」で構成されている。しかし、「先進国」「新興国」「開発途上国」といった国家の性格の違いはそれぞれの政治志向をも全く異なったものにし、グローバル化による国家の発展格差の拡大とも相まって、世界の至る所で近代的国家観である「国民国家」への懐疑が生じている。すなわち、これまでの国家の枠組みや国際システムは崩れつつあるのである。こうした世界規模の「国家観の揺らぎ」は、従来の西洋的価値観を基礎とする国際秩序をも大きく動揺させ、もし、人類の未来建設に向けた明確な理念も計画も持たずに、ただ現実の変化に左右されるだけならば、国際秩序は崩壊を免れないであろう。
世界・人類の歴史を見るとき、多くの国家・民族が文化や価値観をめぐって様々な対立・抗争を繰り返してきた。そのような中で、日本は古くから自国の文化と世界の様々な文化を上手く融合させ、他国文化の本質をより純粋化し、それを独自の文化や価値観へと昇華し、大切に育んできた。それは人類に最も深刻な対立をもたらしてきた宗教についてもいえる。その意味で、日本は真のグローバルな感覚を持った国家であり続けてきた。
今日、人類が直面している最大の課題は、様々な対立する世界観を調和・総合することであろう。国際社会を展望するにあたって、日本固有の文化感覚は、人類の多様な創造的営みが有機的に調和するような、新たな秩序を生み出す一つの鍵となるのではなかろうか。
我々は、日本が「日本らしさ」を発揮することで、混沌としている国際社会の活路を見いだしうると考える。そのために、日本が古代から今日に至るまで歩んできた国際関係の歴史事実をたどり、日本が持つ創造力と智慧を明らかにする。そして、その成果の上に、単なる願望や理想論や観念論ではない、国際社会の実情を見据えた現実感のある新たな国際社会の理念とその実現のための戦略を探究するものとする。
第17期事務局長 田中友佳子